272「ある意味感謝」 令和3年4月

四月二十五日の日曜日になりました。一週間前の土曜日にもう連絡も来ないものと思っていた彼から連絡がきたため次の日の日曜日に一大決心で彼に自首しないのかと問いただしたんですが、彼は殺人を否定しあの話は冗談だったと言われました。彼から連絡がくることはもうないだろうと思いましたが、週末になるとどうしてもまた彼が口封じに殺しに来るんじゃないかと不安になり、昨日は妹の家に泊まらせてもらいました。もし夜中に彼が来た場合私が家にいると思わせるためにあえて車も家に置いておき、妹に迎えに来てもらいました。我が家は玄関の鍵が壊れているため留守中誰でも勝手に家の中に入れてしまいます。なので、もし夜中に彼が来た場合にはそれが分かるように玄関にトラップをしかけておきました。妹の家に泊めてもらったおかげで安心して眠りにつくことができました。

朝家に戻りしかけておいたトラップが動いていなかったことから彼が家に来ていなかったことが確認できました。もし彼が夜中に我が家に来たりでもしていればすべて事情を警察に話していたと思うんですが、彼が何もしてこないとなると私もどうしたらいいのか分かりません。彼が私に話した秘密は本当に作り話だったのかとも思えてきます。証拠なんて何もないから警察には言わないと言った私の言葉を信用して何もしてこないだけなのかもしれません。

彼は一週間前に婚約を破棄した女性から慰謝料をめぐっての調停を起こされています。その女性が精神病院を退院してから二ヶ月経ってからのことでした。この一年その女性の存在は私に地獄のような苦しみを与えてきた存在でしかなかったんですが、彼がその女性と出会っていなければ私はおそらく付き合って数ヶ月のうちに彼と結婚していたと思います。そして、彼は人を殺し人の肉を食べた話も一生隠し通すつもりだっただろうと思います。彼との関係が始まって一年近くも経ってからそんな話を知ることになったので、その女性の存在がなければ私は今頃人食い殺人犯の奥さんになっていたはずです。

心の底からその女性に嫉妬し言葉では言い表せないぐらいの苦しみを味わいましたが、今となってはある意味感謝だなと思いました。