20「猿の生霊と動物霊の好物」 平成28年11月

十一月に入る頃には父の精神状態はだいぶ落ち着いてきたものの、相変わらず毎日昼間からビールを飲んでいました。アルコールのせいで発狂し、また唾をかけられた時に父と喧嘩になってお互い軽傷を負ったことが一度ありましたが、それ以降は父の状態もだんだん良くなっていき、私への暴言は毎日続いてはいたものの唾をかけられることは減っていきました。不思議だったことは発狂する回数が減ってきた父が機嫌がいい時に猿のようなゴリラのようなマネをしてふざけながら私の悪口を言うようになったことです。私の悪口を言いながら息子の遊び相手をしてくれているだけだと思っていたんですが、胸を叩くしぐさがゴリラそのもので、耳をかく姿は猿そのものです。今までバナナがあまり好きでなかった父が自分でバナナを買ってきてしょっちゅう食べるようになりました。

ゴリラの霊に憑かれるというのは聞いたこともないので疑問ですが、父は頻繁に近所の山道に散歩にも行きます。そこはたまに猿が出るので猿の生霊に憑かれたのかとも思いました。父が猿のようなゴリラのようなマネをしたのは数回だけで、あまり好きではなかったはずのバナナを食べていたのも一ヶ月ほどだったので猿霊は一ヶ月ほどですぐに離れたんだろうと思います。七年前に父が統合失調症になって幻聴が酷かった時には冷蔵庫の中には厚揚げがいつもストックされていて、父が厚揚げを湯通しして味付けもせず食べる姿を里帰りした際に何度か見たことがあります。狐は油揚げを好んで食べるそうですが、動物霊に憑依されているとその動物の好きな食べ物を食べるようになるというのが頷けました。

本当に猿の生霊が憑いたかどうかは分かりませんし、そのことによって私が何か被害を被ったわけではありませんが、一ヶ月間父があまり好きでないはずのバナナを毎日のように食べていたことも本物そっくりの猿真似をしたこともとても不思議な出来事でした。